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矯正歯科とは歯並びをきれいにする歯科治療(歯列矯正)です.一般的な歯科や審美歯科では歯を削って歯並びをきれいにしますが,矯正歯科では歯を削らすに移動する事で歯並びをきれいにします.そのため,普通の歯科とは治療のシステムが異なり,患者さんには様々な疑問が湧いてきます.そこで私たち矯正歯科専門医が患者さんからよくいただく質問を定期的に掲載していきます.
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質問


はじめまして。小学5年生の娘のことで相談させていただきます。
娘は、叢生と上顎前突の為、乳歯と永久歯の生え変わり時期より歯列拡大からヘッドギアを使っての治療をし(1期治療)、現在は、ブラケットをつけての治療で半年が過ぎたところです。
担当医からは、1期治療が終わった時点で抜歯(小臼歯上下4本)、非抜歯のボーダーラインなのでどちらかの選択をといわれました。
(説明では、抜歯の場合は理想的な口元できれいに仕上がるが非抜歯では歯を並べるだけということでした。)
こちらの希望としては、抜歯した口元の方がいいとは思いましたが悩んだ末、その時点で抜歯する勇気もなく、そのまま装置をつけての治療となり現在に至っています。
今の時点で娘の歯はきれいに並んできていますが、いくつか気になるところがあります。それは、
1.装置のせいもあるとは思いますが少し口がとじにくいこと
2..笑った時に歯茎と歯全体が見えること(歯がとても大きい)。
3.上下の歯の前後間が広いように思う
4.多少口元の突出感がある
(これらは、客観的に見ると大したことはないかもしれませんが)
このまま非抜歯でいくと装置をつけておく期間はあと半年ほどと聞いていますが
今後の治療で少しは変化があるのでしょうか? (担当医に聞くべきなのですが)
それとも成長とともに多少は軽減されるものなのでしょうか?
また、もし抜歯するとなると、移動量が大きくなる分痛みもかなりあるのでしょうか?
今まではほとんど痛みがなかったのでやっぱりこのままの方が・・などと悩んでおります。
お忙しいとは思いますがアドバイスをいただければと思います。


回答


はじめまして。以下、かなりの長文ですが我慢して下さい。
 まず、私は頑迷な抜歯論者でもなければ、頑固な非抜歯論者でもありません。本来、矯正治療上の抜歯は治療目標ではなく、目標を達成させるための一手段であって、抜歯非抜歯はより良質な治療結果を得るために、抜歯が必要か不必要かの観点で判断されるべきだと考えるものです。
 矯正治療に関するご質問のうち最も多いのがこの抜歯についての問題ですが、質問者さんのご質問に回答する前に、少し長くなりますがこれまでお答えしてきた回答の中から、一般論をまとめて記載させていただきます。

 歯科矯正治療の先進国であるアメリカでは、抜歯・非抜歯の問題について20世紀初頭、つまり今から100年も前から論争が行われており、基本は抜歯論なのですが、忘れたころに非抜歯論が持ち上がっては消え、消えては持ち上がる歴史を繰り返しています。
 抜歯をできるだけ避けたいと考えるのは患者さんも矯正医も同じですが、日本人の不正咬合においては、非抜歯で治療できるケ−スはかなり限られているのが現実です。最新出版された矯正専門書にある大学病院矯正科や矯正歯科専門医院の報告では、大体どこも70%前後が抜歯ケ−スだったと記されています。
 矯正治療において抜歯が必要な理由は、歯の大きさとそれを収容する顎の大きさとの不調和(ディスクレパンシ−)を解消するためで、簡単にいえば、歯が大き過ぎるとか、顎が小さ過ぎるために歯ならびが不規則になったり、あるいは口元が突出した状態を解消するためです。また、抜歯による空隙は治療後に閉じてしまうものですから、いわゆる<抜歯イコール入れ歯>の抜歯とは意味が異なります。矯正治療によって歯の総数は減りますが、それによってより好ましい咬み合わせや顔貌を得るわけですから“足りなくなる”と考えることはありません。
 歯の大きさは前歯が大きければ奥歯も、 上の歯が大きければ下の歯も大きくなりますので、 理屈からいえば、 1本1本の歯を小さくするとか、 顎を広げて大きくするということが考えられますが“現実的にはできないことあるいは限界があること”ですので、<歯の数を減らして(抜歯)、 顎の大きさに合った歯の数にする>方法がとられます。
 通常、抜歯が4本なのは、歯の数は左右対称、上下同数ですので上下左右から1本づつ抜歯するのが原則で、むしろ変則的な抜歯は最終的な咬み合わせをおかしくする原因になります。
 患者さんの“抜かないことはいいことだ”という、信仰に近いような考えを説得するのはどの矯正医も苦労するところですが、誰でも「歯を抜いて治しますか、抜かない(非抜歯)で治しますか」と尋ねられれば、「抜かないで治して」と言うのが人情です。しかし、抜歯か非抜歯かは、矯正治療方針を決定するうえで極めて重要な要素であり、その決定権は本来術者である矯正医が持つもので、患者側に委ねるべきものではありません。真に抜歯すべきケ−スであれば、患者が非抜歯を希望しても、非抜歯なら手掛けないのが矯正医としての責任ある態度だと思います。

 顔貌(口元)の審美性については、欧米人(コーカソイド)の鼻は高くオトガイ(顎の先)は突き出ていますから、矯正治療によって口元を引っ込めなければいけないケースは少なく、非抜歯で口元が少し出ても顔貌にあまり影響はありません。問題は、日本人(モンゴロイド)の頭蓋顔面の骨格や歯の大きさ形態が、欧米人のそれとまったく異なるにもかかわらず、欧米人の治療基準をそのまま当てはめて治療しようとすることです。
 多分、患者さんが考えるのとは逆に、矯正治療は抜歯して治す方が一般に易しいのです。もともと非抜歯ケースを非抜歯で治すのは一番簡単ですが、抜歯ケースを非抜歯で治そうとすると難しくなります。それは、非抜歯では抜歯によるスペースがない分、歯の移動範囲や量が制限されるからです。
 矯正治療の仕上がりとは何をもって良しとし、何をもってうまくいかなかったとするのか。E-ラインは、esthetic line(審美ライン)とよばれる審美性をみるための一つの基準線ですが、これは機能を評価するラインではありません。E-ラインの基点となる鼻を、形成外科的に高くしたりオトガイ(下顎の尖端)を豊かにすれば、必然的に口唇はE-ラインの内側に入ってきますが、それだけでは真に美しい側貌は得られません。
 軟組織(唇や頬など口腔周囲の筋肉)の機能的な意味を含めた美とは、口唇を閉じた状態での横顔において、鼻の下から唇さらにオトガイにかけてのラインに無理(緊張)がなく、下部組織である骨の状態を再現していることです。
 これは、矯正医が必ず撮るレントゲン(頭部X線規格写真:セファログラム、通称セファロ)でより良く見ることができます。出っ歯の人が口唇を閉じようとすると、多くは前歯が邪魔をしますので、意識的に口唇を引っ張らなくては口を結ぶことができません。この時に軟組織が歪み、ことに下唇からオトガイにかけてのS字状のラインが崩れ、オトガイ(顎の尖端)が不明瞭なノッペリした側貌になります。
 また、極端な前歯突出の場合は、意識しないと口唇を閉じるのが難しく、閉じるとオトガイ筋が緊張して顎の先に“ウメボシ”と称される特有のシワを作ります。この軟組織の状態は、審美的にはもちろん機能的にも好ましいものではありません。
 矯正治療後は、口唇を閉じた時とリラックスしている時の軟組織(唇や頬など口腔周囲の筋肉)の形態がほとんど変わらないことが、軟組織上から見た一つの治療目標であり、仕上がりの善し悪しを見る(まだ他にもありますが)大きな要点です。つまり、硬組織(歯や顎)が奇麗になり、歯が引っ込みキチンと咬むことは矯正治療としては当たり前のことで、さらに、軟組織をできるかぎり調和のとれた状態に治めることが、よりステージの高い矯正治療だといえます。

 引用は以上ですが、現在、教授が日本矯正歯科学会長をされている新潟大学歯学部・矯正学教室のHPは色々ためになることが分かりやすく掲載されています。
http://www.dent.niigata-u.ac.jp/ortho/hp/ortho.hpinfo.html
そこから「矯正歯科治療QandA]や[どうしてきれいな歯並びになるの?][CAPIS]の項目をお嬢様に照らし合わせてご参照ください。抜歯のこともよく分かるはずです。

 <今後の治療で少しは変化があるか> <成長とともに多少は軽減されるか?>
 列挙された ? ? ? ? の四項目については、残念ながらほとんど期待できないといわざるを得ません。(非難ではなく)お嬢様の1期治療で歯列拡大をしたことが抜歯の判断を鈍らせる原因でしょう。1期治療をせず、永久歯列の完成(つまり今の年齢)まで待って、抜歯治療で一回で終わらせてよかったケースではないかと推測します。
 <客観的に見ると大したことはないかもしれませんが>とありながら親が気になる程度というのは、専門的に分析すると通常はかなりの程度であるのがほとんどです。まったく1期治療が無駄だったということではなく、成長発育期の今からの時期をとらえて、もう一度ヘッドギアの使用と抜歯によって、歯列の拡大(非抜歯)から縮小(抜歯)という方針転換が望ましいと考えます。
 <抜歯すると痛みもかなりあるか?>
 痛みには個人差がありますので何ともいえませんが、細胞が若く活発なこの時期の歯牙移動は成人のそれよりずっとスムーズで、その分痛みも強くないものです。矯正治療中の痛みは、歯の移動量や移動期間とあまり関係ありません。

 大変な長文なってしまいました、読了お疲れさまでした。回答を参考にされ、どちらにせよ決断を先延ばしにしないことが肝要です。ご不明な点がありましたら改めてお尋ね下さい。内容にそってお答えさせていただきます。


質問


先生がご指摘の通り、1期治療でかなり状態も良くなり(歯の重なりが少しになり突出感が若干少なくなった)加えて年齢的にもこれから顎や顔も成長するのではと思ったのが抜歯にふみきれない理由でした。
やはり、成長期でも期待はできないということですね。
それでは、これから抜歯治療に切り替えた場合、ヘッドギアで後方移動させた奥歯は、今度は前方への移動になるのでしょうか?
そうなると、1期治療や半年間の装置をつけての治療はマイナスにはなりませんか?
担当医からは、今の状態は標準より少し出ているのでそれを改善するなら前歯を少しずつ削って引っ込めることでほぼ標準になる。という方法もいわれていますがどう思われますか?
また、このまま非抜歯でいくなら親知らずの抜歯を近いうちにといわれていますが、まだ出てきていない歯を抜歯するのは年齢的に大丈夫なのでしょうか?
小臼歯の抜歯をすればすぐに親知らずは抜かなくていいと思うのですがどうでしょうか?子供にとって一番負担のない方法をと考えると色々悩んでしまいます。
こうして相談させて頂いてとても感謝しております。
よろしくお願い致します。


回答


根本は、最初の治療方針の説明の際、2期治療を抜歯治療か非抜歯治療のどちらでやると説明されたかです。治療途中で方針の変更はあり得ることで、悪いこと間違ったことではありませんが、もともと抜歯を前提にやった1期治療だったら拡大は意味がありません。しかし、1期治療そのものが無駄だったわけではなく、ヘッドギアの使用それ自体には意義があります。
 <ヘッドギアで後方移動させた奥歯は、今度は前方への移動になるのか?>
 ヘッドギアは必ずしも奥歯を後方移動したわけではなく、奥歯(六歳臼歯)を介して上顎骨の前方発育を抑制(方向転換)させたのです。その間、下顎が前方に発育することによって、上下顎の前後的なズレは減少します。この改善された上下顎関係は大切ですから、2期治療でもそれを継続するために通常ヘッドギアは使い続けます(使わなくていいケースもあります)。ですから<1期治療や半年間の装置をつけての治療はマイナス>ではなく意味のある治療だったことになります。
 <前歯を少しずつ削って引っ込めることでほぼ標準になる>
 お子様は抜歯・非抜歯のボーダーラインケースということですが、その基準は先生によって異なるものです。この「前歯を少しずつ削って]というのは非抜歯論者が好んでとる方法ですが、その先生のいう“標準”まで歯を削れるのか、削っていいのか、それをここではどちらとも明言できません。ただ、私(あるいは私の関係する学派)は原則的にこの方法はとりません。歯を削るというのは不可逆的(元に戻れない)処置だからであり、その程度で期待する変化は望めない(ものがほとんど)と考えるからです。
 <このまま非抜歯でいくなら親知らずの抜歯を近いうちに>
 この考えは非抜歯矯正の理論の中にあるものです。つまり非抜歯といっても親知らずは抜歯するわけですが、まだ顎骨の奥深い所に歯胚として存在する親知らずを抜歯するのは、歯科としては結構な手術です。15歳未満児の親知らずの抜歯は保険が適用にならないはずですが、これは、そもそもその年齢の親知らずは抜く適応になっていないことを意味しています。この理論と方法は知っていますが、私自身は一例も経験していません。
 <出てきていない歯を抜歯するのは年齢的に大丈夫なのでしょうか?>
 上記の通りですが、現実に行われていることも確かです。しかし、もっとも厳しい抜歯であることには間違いありません。
 <小臼歯の抜歯をすればすぐに親知らずは抜かなくていいと思うのですが>
 その通りです。通常は矯正治療が終了し、親知らずの生える年齢まで観察を続け、必要に応じて抜くか保存するか、その判断あるいは処置をして矯正治療は完了になります。ボーダーラインケースであれば、小臼歯の抜歯によって将来親知らずは抜かなくても済むかもしれませんし、抜くとしても易しい抜歯で済むことが予想されます。


矯正歯科
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